コラム
任意後見支援型信託契約
信託は、他の制度を組み合わせることで、一層便利に活用することができます。本稿では、任意後見契約と組み合わせることで、老後の生活費確保と事業承継が可能になる例を解説します。
【事例】 会社のオーナーであるSさんは高齢となり、会社の後継者をTさんに決めました。Sさんは、今後、身の回りのことや財産管理が満足にできなくなることを懸念しています。Sさんとしては、今後も会社の役員としての地位は残したまま役員報酬を受け取り、それを自身の生活費や医療費、交際費等に充てたいと考えております。また、身の回りのことは、仲の良い親族であるNさんに面倒をみてもらうことにしました。しかし、Nさんは会社のことに詳しくありません。そのため、Nさんに、Sさんが持つ自社株式や事業用不動産まで管理してもらうのは難しいと考えています。 |
この場合、Sさんは、身の回りのことの面倒をみてもらうために、Nさんとの間で、任意後見契約を締結します。任意後見契約とは、委任者本人の判断能力が十分なうちに、将来精神上の障がい(認知症等)により判断能力が不十分になった場合に備えて、任意後見人に就任する受任者を自ら選任し、将来の自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約です。任意後見契約は、委任者の判断能力が低下し、家庭裁判所において任意後見監督人が選任された時から、その効力を生じます。
会社役員について法定後見(成年後見、保佐等)が開始すると、会社役員はその地位を失います。しかし、任意後見契約を締結しておくと、法定後見が開始しないため、法定後見レベルに判断能力が低下しても、会社役員としての地位を失いません。Sさんは、任意後見契約を締結しておくことで、今後も役員の地位にとどまり、役員報酬を受け取ることができるのです。
一方で、会社のことに詳しくないNさんが、Sさんの自社株式や事業用不動産を管理運用するのは難しいです。そこで、自社株式や事業用不動産については、会社の後継者であるTさんに信託し、管理運用してもらうという方法が効果的です。この場合、株式の議決権行使は、法的には受託者であるTさんが行うことになります。Tさんに議決権を行使させるのが不安な場合は、Sさん自身を株式議決権行使の指図権者に指定しておくことで、事実上、Sさんの意思で議決権を行使する(TさんがSさんの指図に従って議決権を行使する)ことができます。
以上のとおり、信託と任意後見契約とを組み合わせることで、Sさんは、老後の生活費(役員報酬)を確保しつつ、後継者であるTさんに自社株式や事業用不動産を譲渡することで事業承継することもできます。
このように信託は、他の制度と組み合わせることで、活用できる場面がさらに広がります。事業承継や老後の生活費確保にお悩みの会社オーナーの方は、ぜひ一度、弊所にご相談ください。
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