コラム
認知症対策としての家族信託
目次
1.認知症になると財産を自由に処分できなくなります
認知症になってしまうと、法的には、その人に意思能力(自己の行為の法的結果を認識・判断できる能力)がないと判断される可能性があります。
そして、契約を行った当事者に意思能力がない場合,契約は無効となります。
つまり、意思能力がないと判断されてしまうと、銀行口座からお金をおろせない、自由に物を買えない、所有している物を売却できない、これらのことを家族に代理でしてもらうことができない、という状況になってしまいます。
平均余命が伸びるにしたがって、資産はあるのに、認知症等のために、財産を適切に管理することが困難となる世帯が増加し、社会問題となりつつあります。
2.成年後見制度について
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などの影響で、物事を判断する能力が十分でない方について、本人の権利を守る「成年後見人」を選任して、本人を法律的に支援する制度です。
成年後見制度には、①裁判所が成年後見人を選ぶ「法定後見制度」、②本人に十分な判断能力があるうちに、判断能力が低下した場合には、あらかじめ本人自らが選んだ人に、代わりにしてもらいたいことを契約で決めておく「任意後見制度」があります。
これだけを見ると,認知症対策には成年後見制度さえ利用すれば大丈夫だとお思いになる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし, 成年後見制度にはいくつかのデメリットが存在します。
①.法定後見制度の場合、親族は成年後見人になれない可能性が高い
法定後見制度の場合、家庭裁判所が後見人を選任することになりますが、ほとんどの場合、親族等の知人ではなく、赤の他人の弁護士や司法書士といった法律の専門家が選ばれます。自由に成年後見人を選べるわけではないのです。
②.後見人に報酬を支払う必要がある
成年後見人には報酬を支払う必要があります。報酬の相場は、月額3万円~5万円です。認知症は、生命に直結するような病気ではありませんので、長年払い続けなければいけないケースもあります。
なお、任意後見制度であれば、親族が後見人になり報酬を自由に定めることができますが、その場合であっても、裁判所から後見監督人の選任を命じられる可能性があり、後見監督人へ報酬を支払う必要があります。
③.任意後見制度であっても、後見人が自由に財産を処分できるわけではない
成年後見制度は、資産を維持することが目的となります。また、資産を維持する観点から、親族等が勝手に財産を処分しては困りますので、一定の財産の処分には、家庭裁判所の許可が必要になります。そのため、財産を運用したり、不動産を売却したりするといったことは自由にできません。
3.家族信託のススメ
以上の通り、成年後見制度は、使い勝手が悪く使いづらいのが実情です。
そこで、認知症対策としてお勧めするのが、家族信託です。
家族信託とは、本人(委託者)が、意思能力があるうちに、自身の資産の運用・処分方針等を決定した上で、信頼できる親族等(受託者)に資産を預けて財産の管理処分を任せるための方法です。
家族信託の設定後に、本人が認知症になったとしても、信託の目的に従って受託者が引き続き信託財産の管理・処分をすることができることができます。つまり、本人に意思能力がなくなった後も、財産の保持だけではなく、積極的な運用をすることもできるようになるのです。
このように家族信託は、本人の財産管理の面では、成年後見制度に比べて、本人の意向に沿った運用が可能となります。
家族信託は、本人が認知症になり意思能力がなくなってからでは、設定をすることができません。家族信託をご検討されている方は早めに準備することをお勧めします。
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