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コラム

家族信託を上手に活用しよう

信託制度と一般社団法人を活用した不動産賃貸事業の承継

複数の賃貸不動産をお持ちの方も多いと思います。この記事では、そのような方が、信託制度一般社団法人を活用して、不動産賃貸事業を家族に承継する方法を解説します。

【事例】
 私S(80歳)は、複数の賃貸アパートや駐車場を所有している不動産オーナーです。家族構成は、妻A(82歳)と長男B、長女C、二女Dです。妻Aは認知症になり、すでに施設に入っています。長男Bは近所に住んでいますが、長女Cと二女Dは遠方に居住しています。家族の仲は良好です。
 これまで、不動産賃貸事業は私一人でやってきました。しかし、さすがに高齢となり、物忘れも増えてきたので、長男Bに引き継いでもらおうと考えています。長女Cと二女Dも、そのことに不満はないと言っていました。私が元気なうちに、不動産賃貸事業をきれいに長男Bへ引き継ぎたいです。何か良い方法はないでしょうか。

1 信託制度と一般社団法人の活用

 このような不動産オーナーの財産管理能力の低下問題を解決する方法として、信託を活用することが考えられます。その際、一般社団法人Tを設立し、Tを受託者とする信託スキームがおすすめです。以下で詳しく解説します。

2 信託制度を用いるメリット

(1)成年後見制度の利用は不適切

 Sさんの財産管理能力が低下してから、Sさんに成年後見人をつけるという方法もあります。しかし、本件のように多額の資産を有するケースでは、ご家族ではなく専門職(弁護士等)が成年後見人に選任される可能性が高いです。選任された成年後見人は、これまでのご家族の事情に詳しくありません。また、不動産を現物で管理するのはなかなか大変ですので、売却して現金化するという判断をするかもしれません。不動産が現金化されると、Sさんが亡くなった時の相続税負担が増えてしまいます。

(2)信託制度の活用がおすすめです

 そこで、信託制度を活用することが考えられます。具体的には、Sさんを委託者兼受益者としたうえで、長男Aさんに不動産の管理を託します。Sさんを受益者とすることで、Sさんは不動産収入を引き続き得ることができるので、Sさんの生活資金を確保できます。Sさんが今後認知症等になって財産管理が難しくなっても、すでに長男Aさんに不動産の管理を託しているので、心配ありません。信託契約に、不動産の売却を制限する条項を入れておけば、不動産の現金化を防ぐこともできます

(3)一般社団法人の活用

 長男Aさんに不動産の管理を託す場合、長男Aさん自身を受託者とすることも考えられます。しかし、その場合、長男Aさんが不慮の事故等に遭った場合、問題が生じます。
 長男Aさんが不慮の事故に遭う等して不動産管理が難しくなった場合に備えて、別の人(たとえば長女Bさん)を後継受託者に指定しておくこともできます。しかし、いざ長男Aさんから長女Bさんに不動産管理を引き継ぐ際には、不動産の登記名義も移さなくてはなりません。長男Aさんが亡くなってしまった場合には、長女Bさんの単独申請で登記を移すことができます。しかし、長男Aさんが意識不明や判断能力低下になったもののご存命の場合、長男Aさんと長女Bさんの共同申請でないと登記を移すことができません。そのような状況では長男Aさんが申請することは難しいので、長男Aさんに成年後見人をつける必要が生じます
 このように、長男Aさん自身を受託者にすると、長男Aさんが不慮の事故に遭う等した場合の対応が煩雑になります。
 そこで、一般社団法人を設立し、この法人を受託者にするという方法が考えられます。法人には、死亡や判断能力の低下という問題は生じませんので、上記の問題を回避することができます。長男Aを法人の代表理事にし、不動産管理は実質的な不動産管理は長男Aに行ってもらいます。仮に代表理事になった長男Aの判断能力が低下しても、別の代表理事を選任すればよく、不動産登記を移転する必要はありません。また、長女Bや二女Cも理事にしておけば、理事の報酬として一定の金銭を長女Bや二女Cに渡すこともできます。

(4)株式会社ではダメなのか

 なぜ一般社団法人なのでしょうか。株式会社の設立ではダメなのでしょうか。実は、株式会社が信託契約上の受託者となる場合、信託業の免許や登録が必要になってしまうのです(信託業法2条1項、3条、7条)。しかし、一般社団法人が受託者となる場合は、信託業の免許や登録は不要と解されています。
 そのため、株式会社ではなく、一般社団法人を設立して受託者とする方法がおすすめなのです。

3 まとめ

 不動産オーナーとして不動産賃貸の事業承継にお悩みの方は、ぜひ信託制度と一般社団法人を活用する方法をご検討ください。また、その際は、ぜひ家族信託に詳しい弁護士にご相談ください。

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